虹色ほたる〜永遠の夏休み〜

すばらしい映画だった。

公開初週。130席の劇場に、客はあたしを入れて7人だった。ほぼ親子連れ。

大人のアニメファンは絶対見に行ってほしい。全力でおすすめします。この映画を超える映画はそうそう現れない。また、今後、この映画は認められて反響を呼ぶに違いない。そう信じています。田舎の夏休みの思い出と、どうしようもない別れ、感動的な結末。三拍子そろったアニメです。こういう映画を見たかった。期待していた通りの、期待以上の傑作でした。

伏線の張り方、作画の独特さ、構図の特殊さ、この三つが特に良かった。全体に無理なく伏線が張られていて、すべてをうまくまとめあげた。作画は手書き風のやわらかい独特な絵で新鮮だった。カメラアングルが特殊だった。例えば縁側に座る主人公を屋根越しに上から撮ったり、部屋で泣くヒロインを斜めの視点から描いたりしているところが特殊だった。

この映画のポイントは泣きどころだと思う。ひとの生き死にと、仲間との永遠の別れが涙を誘う。安易な泣きどころと言えば安易なんだけど。それだけ王道なシナリオを真面目に描いているところに好感が持てる。

シナリオの類似って意味で、どうしても比較してしまうのが『Angel Beats!』だと思う。生と死の間の世界、約束、再会。なんとなく似ている。主題と題材自体はまったく別ものなのだが、なんとなく似ている。

アニメ史に残すべき、すばらしい映画でした。

あらすじ

夏。小学六年生のユウタ(武井証)はカブトムシを取るために、昔、父親(堀内賢雄)と訪れたことがあるダムへ行く。父親は他界していた。ダムの底には村が沈んでいる。ユウタが森の中をさまよっていたところ、枯れ巨木に寄りかかる謎の老人を見つける。ユウタは老人に声をかけ、飲み物を与える。老人は、これから嵐になると予言し去っていく。ユウタがダム湖のほとりでのんびりしていると雨が降ってきてしまう。ユウタは濁流に足を取られ流される。老人の声が聞こえ、助けてくれると話す。

草むらで目を覚ましたユウタは、さえ子(木村彩由実)と名乗る年下の少女に出会う。さえ子はユウタのことをいとこだと言い、そこに現れた男の子、ケンゾーに紹介する。ダム湖だった場所には村が広がっていた。成り行きから、ユウタはさえ子の家に泊まることになる。テレビと新聞を見たユウタは、ここが1977年、昭和52年だということに気がつく。ユウタが風呂に入っていると、あの謎の老人が現れ、元の時代へ戻るためにはひと月ほどかかると説明する。

翌朝、ケンゾーとともにカブトムシを取りに出かける。神社の石碑の上で談笑していたユウタとケンゾーは、神主の、通称青天狗(大塚周夫)に追いかけられ逃げる。家に帰った二人だったが、電話で呼び出される。子どもたちが神社に集められ、青天狗は説明する。今年の祭りを最後に村がダムの底に沈む。最後の祭りに子どもたちで行灯(あんどん)をつくり、道に飾って欲しい。子どもたちは思いおもいの絵を描き、行灯をつくる。ユウタは、しだいに子どもたちとも打ち解けていく。ユウタとさえ子はケンゾーに連れられて蛍を見に行く。無数の、幻想的な蛍を見る。ユウタは、村の子どものひとり、せつこに手紙で呼び出される。おめかししたユウタだったが、せつこの目的の相手はケンゾーだった。

祭りが近づいたある日。ユウタは父親が事故で他界したことを夢に見て、涙を流しながら深夜に目覚める。トイレへと行くと、さえ子が部屋で泣いていることに気がつく。さえ子は、自分がここの家の子ではないと話す。さえ子にはお兄ちゃんがいて、一緒に事故にあったという。さえ子のお兄ちゃんは事故で他界する。ユウタの父親はさえ子の巻き込まれた事故で死んでいた。さえ子は事故のあと、老人に連れられてこの家にきた。ユウタはさえ子が自分と同じ境遇で村へきたことを知る。老人に話を聞くと、さえ子はお兄ちゃんの元へ行くと決めているという。ユウタは、さえ子が事故のあと病院のベッドで眠っている映像を見る。

祭り前の花火大会。ユウタ、さえ子、ケンゾー、せつこの四人は花火を見に神社へ行く。花火の最中にさえ子は突然倒れる。青天狗に見てもらうと、さえ子は疲労で眠っているという。せつこは祭りを前に引っ越しする。ケンゾーとせつこは再び会う約束の指切りをする。

夏祭り前夜祭。神社に集まった子どもたちはごはんを食べる。ひとり抜け出したユウタは、部屋にたたずむ青天狗を見つける。青天狗は戦争で友人と離別してしまったと話す。ユウタはつぶやく。

「どうして大好きなものが消えていくんだろう」

夏祭り。おばあちゃんに浴衣を着せてもらったさえ子は、おばあちゃんに抱きつきこう言う。

「おばあちゃんありがとう。ごめんね」

ユウタは、夏祭り会場から姿を消したさえ子を探す。さえ子が消えれば、さえ子のことは忘れてしまう。さえ子はお兄ちゃんのところへ行くと話す。ユウタはさえ子にこれからも生きてほしいことを伝える。ユウタはさえ子を連れて行灯の道を走り抜ける。蛍の広場へ出たユウタは、さえ子がどこにいても絶対見つけると約束する。気がつくと残されたユウタはさえ子のことを忘れていた。

ユウタは村から出ていく。おばあちゃんはユウタに最後の言葉をかける。

「どこに住んでもどこで暮らしてもユウタはユウタらしくな」

ケンゾーに別れを告げ、トラックの荷台に乗り込む。ユウタは村で過ごした記憶を失い、元の生活へと戻る。

数年後。ユウタはバイクに乗ってダム湖を訪れる。蛍で有名な名所だった。蛍狩りを企画したのはケンゾーだったが、ユウタはケンゾーに気がつかない。ユウタは盲目の女性、さえ子(能登麻美子)に会う。さえ子とわからぬまま、さえ子をともなって蛍を見ようとしたそのとき。虹色の蛍が丘と湖をまばゆく照らす。ケンゾーはせつこらしき女性と結婚して子どもとともにほほえむ。ユウタはさえ子の手をとって、湖面の上を歩く。眼下のダムに沈んだ村を見て、さえ子との約束を思い出す。

「約束守ってくれてありがとう、ユウタくん」

おわり。